1.相続の基礎知識

  1. 1. 誰が相続人になるの?
    「相続」とは、死亡した人(被相続人)の財産に関する一切の権利義務を、一定の親族(相続人)が承継することです。ただし、遺言がある場合は、誰でも承継することができます(遺贈)。
    指定された人がいない場合は、民法に定められた法定相続人だけが、財産を承継することになります。
    法定相続人は、配偶者・直系血族・兄弟姉妹で、配偶者がいる場合は、配偶者は常に相続人になります。
  2. 2. 相続の対象となる財産とは?
    金銭で見積もることのできる全ての財産のことです。例えば、土地、借地権、建物、預貯金、有価証券、ゴルフ会員権、宝石などです。
    また、死亡時に所有していない生命保険金、死亡退職金のほか、個人年金や借金の免除といった遺言によって得た利益など(「みなし相続財産」)として、課税財産に含めます。また、借入金などのマイナスの財産も相続することになります。例えば、ローンでアパートを建設した場合、そのローン残高は他の相続財産と相殺されることになります。
    相続税のかからない財産としては、墓地・仏壇、生命保険金・死亡退職金の一定額などがあります。
  3. 3. 財産をどう分けるの?
    財産は、遺言や相続人同士の話し合いで自由に分けることができますが、話し合いがまとまらない場合は、民法で定められた割合で分けることになります。
    これを法定相続分といい、相続税の計算でもこれを基準に算出します。

    相続人の取り分
    (法定相続分)

    >>>

    配属者と子(孫)
    image1
    配属者と父母(祖父母)
    image2
    配偶者と兄弟姉妹(甥・姪)
    image3
    遺留分について
    法定相続人に最低限保証された財産の取り分を「遺留分」といいます。
    遺留分は、それぞれの法定相続人の法定相続分の2分の1です。例えば、相続人が配偶者と子どもの場合、配偶者は全体の4分の1、子どもは全体の4分の1です。兄弟姉妹については遺留分はありません。
    また例外として、配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は、配偶者の遺留分は2分の1。直系尊属だけが相続人の場合は、直系尊属の遺留分は3分の1です。
  4. 4. 相続税を計算する
    相続税は、基礎控除を超える財産を相続した場合にかかる税金です。基礎控除の計算式は次の通りです。(平成27年1月1日以降)

    基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人の人数

    ■相続税の速算表

    課税遺産総額 税率 控除額
    1,000万円以下 10%
    3,000万円以下 15% 50万円
    5,000万円以下 20% 200万円
    1億円以下 30% 700万円
    2億円以下 40% 1,700万円
    3億円以下 45% 2,700万円
    6億円以下 50% 4,200万円
    6億円超 55% 7,200万円

2.遺産分割

遺産分割の方法には次の3つがあります。

●現物分割
遺産そのものを分割する方法です。土地は相続人Aに、預貯金は相続人Bに分ける方法です。土地そのものを分割する場合もありますが、
事前に対策が必要です。
●代償分割
分割が困難な不動産などの資産を相続した相続人が、代わりに金銭等を他の相続人に支払う方法です。
●換価分割
分割が困難な不動産などの資産を売却して現金化し、現金を分割する方法です。
  1. 1. 遺言について
    遺言の内容については何を書いてもかまいません。分割内容の他に、残していく家族への感謝の気持ちなどを書くのもよいでしょう。
    また、遺言書は何度でも書き換えられます。遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があり、作成方法については民法で厳重に定められています。自己流で作成しても遺言書として認められない場合がありますので、専門家に相談するのがよいでしょう。
  2. 2. 遺産分割協議
    遺言に不服のある相続人がいて手続きが困難な場合や遺言状がそもそも無い場合は、相続人で話し合うことになります。
    それが遺産分割協議です。
    遺産分割協議には相続人全員の出席が原則で、遺産分割の内容を決めるには全員の合意が必要です。もし、一人でも不参加や反対者がある場合は、協議不成立となって家庭裁判所の調停(調停分割)、あるいは審判(審判分割)が必要となります。協議が成立した場合は、遺産分割協議書を作成し、協議内容に沿って遺産が分割されます。
  3. 3. 「共有」による遺産分割の盲点
    遺産相続には、分割せずに複数の相続人で「共有」する場合もあります。不動産など、現物分割が困難でその他の分割も望まない場合に、相続人それぞれが取得するのではなく、3分の1や4分の1といった割合で相続する方法です。
  4. 4. 任意後見制度とは?
    認知症や脳疾患などにより本人の判断能力が不十分になった場合、本人や本人の財産を保護するために「法定後見制度」があります。
    その場合は家庭裁判所が選んだ成年後見人が、保全型の財産管理をすることになります。一方、「任意後見制度」では、本人に判断能力があるうちに、本人が任意後見人を選び、不動産の処分などもできるよう活用型の財産管理をあらかじめ取り決めることができます。

3.財産の移転 ・・・ 生前贈与を活用する

贈与税

相続対策の一つが財産を生前に移転する、つまり生前贈与です。さまざまな制度を活用することで、有効な相続対策となります。
贈与税とは、個人が自分の財産を個人に無償で譲渡した場合、財産を受け取った方に掛かる税金です。

贈与税の基礎控除は110万円です。
従って、毎年1月1日から12月31日までの1年間の贈与の合計が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。110万円を超えた分について課税されます。税率は下記の速算表にある通り累進課税になっています。

贈与税=(贈与財産価格-基礎控除110万円)×税率-速算表の控除額

■贈与税のの速算表

・20歳以上の者が直系尊属(父母等)から贈与を受けた贈与税の税率

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下の金額 30% 90万円
1,500万円以下の金額 40% 190万円
3,000万円以下の金額 45% 265万円
4,500万円以下の金額 50% 415万円
4,500万円超の金額 55% 640万円

・通常の贈与(上記以外)の贈与税の税率

基礎控除・配偶者控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下の金額 10%
300万円以下の金額 15% 10万円
400万円以下の金額 20% 25万円
600万円以下の金額 30% 65万円
1,000万円以下の金額 40% 125万円
1,500万円以下の金額 45% 175万円
3,000万円以下の金額 50% 250万円
3,000万円超の金額 55% 400万円
  1. 1. 暦年贈与を活用する
    暦年贈与とは、1年ごとに贈与税の基礎控除を活かして贈与する方法です。例えば、単純に毎年110万円を20年にわたって贈与した場合、2,200万円が非課税で贈与が可能になります。
    ただし、毎年決まった金額を続けて贈与していると、「連年贈与」ではないかと見られる可能性があります。

    これを避けるには次のことに注意して下さい。

    • ・贈与をする毎に贈与契約を結ぶ(必須)
    • ・年によって贈与する金額・日時を変える
    • ・(銀行振り込みにするなど)贈与を受けた記録を残す(必須)
  2. 2. 相続時精算課税制度
    相続時精算課税制度とは、贈与時には贈与税を課税せず、相続時に「贈与財産」と「相続財産」を合算し相続税を決定します。
    この制度を利用した場合の「贈与財産」には、2,500万円の非課税枠があり、それを超えた分に一律20%の税率をかけ贈与税を支払います。
    60歳以上の親から20歳以上の子または孫への贈与が対象で、贈与財産の種類、金額、贈与回数に制限はありません。
    また、「相続時精算課税制度」をいったん選択すると、基礎控除110万円の「暦年課税制度」を利用して贈与を受けられなくなりますので、注意しましょう。
  3. 3. 住宅取得資金の非課税枠
    「住宅取得資金の贈与税の非課税特例」とは、父母・祖父母から住宅取得資金の贈与を受けた場合、一定の金額について贈与税が非課税となる特例です。
    住宅取得等の契約締結年月 右記以外の場合(※) 消費税率10%が適用される場合
    省エネ住宅
    耐震住宅
    バリアフリー住宅
    一般住宅 省エネ住宅
    耐震住宅
    バリアフリー住宅
    一般住宅
    平成27年 1,500万円 1,000万円
    平成28年1月~28年9月 1,200万円 700万円
    平成28年10月~29年9月 1,200万円 700万円 3,000万円 2,500万円
    平成29年10月~30年9月 1,000万円 500万円 1,500万円 1,000万円
    平成30年10月~31年6月 800万円 300万円 1,200万円 700万円

    ※消費税率8%で住宅を取得した場合、個人間売買により中古住宅を取得した場合など。

  4. 4. 贈与税の配偶者控除
    一定の要件を満たす配偶者に対する居住用財産贈与には、2,000万円の控除があります。
    基礎控除を含めれば2,110万円まで無税で贈与できます。

    主な要件は次の通りです。

    • ・婚姻期間が20年以上であること
    • ・贈与財産は居住用財産かその購入資金
    • ・その財産に居住すること

    また、居住用不動産とは、国内の家屋またはその敷地です。敷地には借地権も含まれます。ただし、配偶者控除は、同じ配偶者からの贈与は一生に一度しか適用を受けることができません

  5. 5. アパートを生前贈与する
    アパートの生前贈与とは、生前に贈与することでその収益分が相続人に移転され、それを納税資金とすることも可能です。
    そして、アパートの贈与にも前述の相続時精算課税制度が利用できるのが大きな特徴です。アパートを贈与する場合は、評価額が固定資産税評価額となるため時価より低い上、さらに借家権割合の分が評価減になり、おおむね時価の40%で贈与することができます。
    このアパートの生前贈与の場合、気を付けたいのが負担付贈与です。
    アパートをローンで建て、借入金も一緒に贈与すると負担付贈与と見なされ、建物の評価が固定資産税評価ではなく、時価で評価されてしまうという点です。
    ただし、贈与した後も入居者が入れ替わらない場合に限り、貸家建付地の評価減を受けることが可能です。通常、入居者が入れ替わらないことはありませんが、一括借上げにすることにより解決できます。一括借上げの場合、賃貸借契約は借上げ業者との契約となります。借上げ業者が変わらず、借上げ期間が続く限り、貸家建付地の評価減を適用させることができます。

4.財産評価の引き下げ・・・土地活用で節税効果

  1. 1. 土地・建物の評価
    相続財産は原則「時価」で評価されます。しかし、土地に関しては、その利用状況によって評価が異なります。例えば何も利用されていない遊休地よりも、自宅やアパートを建てた土地の方が評価は下がります。
    土地の評価方法には「路線価方式」と「倍率方式」の2つの方法があります。
    「路線価方式」は、その土地が面している道路(路線)に対して決められている1㎡あたりの価額(=路線価)を基準として土地の評価額を決定します。
    路線価は相続財産の評価額を算出する場合の基準となっており、国税庁が毎年1月1日時点の評価を7月に発表します。

    【基本となる計算式】

    土地評価額=路線価×道路に面している状況や形状による加減(補正値)×土地面積

    なお、「路線価」は国土交通省が発表する「公示価格」のおおむね80%にな るように設定されています。

    次に「倍率方式」は、市役所等で算定している固定資産税評価額に各地域ごとに定められている倍率を乗じてその土地の価額を決定します。

    土地評価額=固定資産税評価額×倍率

    路線価はおおむね市街地の道路に固定されていますが、農村部などでは路線価が固定されていません。そのような地域では「倍率方式」によって土地を評価します。

    自宅や別荘などの建物は固定資産税評価額と同じ価額となります。

    建物評価額=固定資産税評価額

  2. 2. 貸家建付地・貸家の評価
    土地にアパートを建てた場合、その土地は「貸家建付地」評価となります。
    具体的には、借地権割合と借家権割合(30%)を乗じた割合が差し引かれます。

    貸家建付地の評価額=自用地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合 )

    借地権割合は、路線価図で定められている地域ごとの数字で、借地の評価を計算する際にも使用します。借家権割合は、全国共通で30%となっています。

    アパートの建物は貸家として、借家権割合(30%)が差し引かれます。

    貸家の評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合 )

  3. 3. アパート建築による節税効果
    では、遊休地にアパートを建てた場合の節税効果のシミュレーションをしてみます。

    [例]自用地評価額1億円、借地権割合70%、借地権割合30%の土地に、1億円(全額ローン)でアパートを建設

    アパートを建てる前の資産

    自用地評価額=1億円

    アパートを借り入れ1億円で建てた場合の資産

    土地:貸家建付地として土地の評価額は7,900万円に評価減!

    貸家建付地の評価額=1億円×(1-70%×30%)=7,900万円

    建物:アパートの評価額は4,200万円に!

    固定資産税評価額=1億円×60%=6,000万円

    アパートの評価額=6,000万円×(1-30%)=4,200万円

    建築費:1億円(全額ローン)

    7,900万円(土地)+ 4,200万円(建物)- 1億円(当初の借入元本)=2,100万円

    自用地(更地)のときと比べて、資産の評価額が80も下がっています。

    また、現金1億円でアパートを建築した場合も、同じ効果を得ることが可能です。

    アパートを建てる前の資産

    自用地評価額=1億円

    現金=1億円

    合計資産=2億円

    アパートを現金1億円で建てた場合の資産

    土地:貸家建付地として土地の評価額は7,900万円に評価減!

    7,900万円(土地)+4,200万円(建物)-1億円(建築資金として投下した現金資産) =2,100万円

  4. 4. 小規模宅地の評価減の特例の注意点
    小規模宅地の特例とは、事業継承・居住の確保の観点から設けられた特例のことを指します。具体的には、自宅を相続した場合は330㎡まで、その宅地の評価を80%減額するというものです。また、事業用の土地の場合は400㎡まで80%減額。アパートなど不動産貸付用の土地は200㎡まで50%減額されます。
    1. 相続人が居住を継続しなければ減額の適用は一切ありません。
    2. 共有相続した場合は、実際に同居している親族しか特例の適用はありません。
    3. 自宅併用アパートの場合は、建物の自宅部分と賃貸部分の面積比で敷地を按分し、自宅部分のみが80%減額、残りは適用する部分のみ不動産貸付地として50%減額となります。例えば敷地面積240㎡の4階建て1~3階を賃貸、4階を自宅とした場合、居住用80%減額の適用となるのは敷地面積の4分の1までです。残りの部分は、 不動産貸付地として50%減額となります。

    さらに、この場合の不動産貸付地に関しては、上限面積の調整が行われます。居住用地が上限240㎡の4分の1を適用したことになりますので、残りの適用分は4分の3です。その4分の3を不動産貸付地の上限200㎡に適用し、150㎡までが50%減額となります。

5.納税資金の確保

  1. 1. アパートの収益を納税資金に
    相続税は、現金での一括納付が原則です。
    アパートなどの収益物件は、収益が相続財産として蓄積されていきます。アパートを生前贈与することでその収益分が相続人に移転され、相続税対策になります。これも納税資金を確保する一つの方法です。
    相続時精算課税制度を使った、アパート(建物のみ)の生前贈与をシミュレーションしてみます。
    60歳以上の親から20歳以上の子または孫へは、相続時精算課税制度が利用でき、2,500万円までは贈与税はゼロになります。
    アパートが、時価5,000万円、固定資産税評価額3,500万円の建物であれば、借家権分を控除するため、固定資産税評価額×(1-30%)=2,450万円がアパートの評価額となり、非課税枠内のため贈与税はゼロとなります。

    時価5,000万円のアパート

    相続税評価額=

    固定資産税評価額 3,500万円×(1-30%)

    = 2,450万円<2,500万円

    相続時精算課税制度の非課税枠を利用すれば、
    贈与税はかからない。

    ※相続税評価額 = 贈与税の評価額

  2. 2. 生命保険の活用については注意が必要!
    納税資金の確保として、生命保険を活用するケースがよくあります。理由の一つが、非課税枠(500万円×法定相続人の数)があるからです。
    社会保障と税の一体改革より、法定相続人は未成年・障害者または相続開始直前に被相続人と生計を一つにする相続人に限定されることが検討されています。つまり、被相続人から独立した子どもなどは数に入らなくなるため、非課税枠が減少してしまう場合が増える可能性があります。
  3. 3. 物納についても注意が必要!
    相続税は現金納付が原則ですが、納付期限までに現金納付が困難な場合は「延納」、さらに「延納」も困難な場合には「物納」による納税の方法もあります。物納できるのは、土地や有価証券です。
    しかし、物納は申請してから認可が下りるまでに3カ月、もしくはそれ以上かかる場合があり、換金性の低いものは却下されます。
    特に、土地の場合は境界線が明らかでない土地や貸宅地などは許可が下りません。逆に換金性の高い土地であれば、物納するより売却した方が良い場合もあります。
    このように物納するには、区画を整理するなどの事前の準備が必要となります。物納は、最終手段と考え、それ以外の対策を事前に講じた方が賢明です。

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